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実践例:保護室病棟での「寄せ書きごっこ」に見る、当事者発のピアサポートの創出

ピアサポートがその真価を発揮するのは、最も当事者の主体性が奪われ、管理が徹底されるはずの場所、すなわち精神科病院の保護室病棟での事例においてです。

3.1 強制入院と「もののやりとり全面禁止」の壁

2008年夏から秋にかけて、筆者は医療保護入院で強制入院しました。

その病棟は保護室病棟と呼ばれ、入院患者同士の「もののやりとりは全面禁止」というローカルルールがありました。

この環境下では、励ましの手紙すら見せることも、あげることも禁止されていました。

しかし、この厳格な管理体制こそが、当事者によるピアサポートの創意工夫を引き出すきっかけとなりました。

3.2 拘束下での「寄せ書きごっこ」ピアサポートの創出

拘束される前に、筆者は喫煙所に1日2回ほど出られる時間を利用し、ピアサポートの活動を始めました。

鉛筆と白い紙の束をデイルームの机の上に置き、「〇〇さんへ」と真ん中に丸で囲み、寄せ書きを行ったのです。

この寄せ書きには、さまざまなメッセージが寄せられ、本人に渡す際は表彰状のようになり、多くの人が参加しました。

私が保護室に閉じ込められ、両手首、両足首、胴体の5点拘束をされていた間も、この形でデイルームでのピアサポートは続きました。

この活動が規制を免れたのには、巧妙な理由がありました。

それは、「誰から、誰へのもののやりとり」ではなく、「全員から一人へのメッセージ」という形式を取ったためです。

この前例のない当事者発の行為に対し、どの医療関係者も取り締まることができなかったのです。

3.3 「私は拘束されていてもリカバリーの過程にいる当事者でした」


この拘束中の経験こそが、筆者にとってリカバリーの力がどこにあるかを悟らせる決定的な体験となりました。

2011年の東日本大震災後のリカバリー全国フォーラムでの連続基調講演で、筆者は涙を流しながら、この経験を叫びました。

「私は拘束されていても、リカバリーの過程にいる当事者でした。」

保護室という最も管理された環境、5点拘束という最も主体性を奪われた状況であっても、ピアサポートが続く限り、リカバリーの過程は進んでいたのです。

病棟にて

当事者の活動は、病棟の雰囲気をも変えました。このピアサポートが勢いづいた病棟では、例えば緘黙(かんもく)で食事を取れない患者に対し、看護師による支援が困難な中、患者さん同士、つまり当事者同士がなんとか物を食べてもらいたいと努力するという変化が起こりました。

また、この変化を目の当たりにした若い看護師さんからは、「やっぱり患者さん同士のやりとりが一番効果があるんだよね」という発言もありました。

看護や管理が厳しい病棟内でもリカバリーが進むという事実は、ピアサポートや自主性、そして専門職が放っておく、見守ることによって促進されるという、リカバリーの原則を証明するものとなりました。

ピアサポートは、薬物療法では解決しえない孤立という最大の問題に対する、当事者からの唯一の、そして最も効果的な回答です。

その力は、単なる感情的な支え合いに留まらず、自己決定と責任の原則に基づいた経験の「シェア」によって成り立っています。

それは言葉や行為で感染するような勢いで広がっていくものです。

精神保健システム全体がリカバリー志向に変わるためには、ピアサポートこそが、当事者がリカバリーの過程に入り込むきっかけになり、当事者の自由な発言を封じないことが、アンチスティグマの鍵となります。

保護室病棟での「寄せ書きごっこ」が示したように、当事者の主体性とピアサポートは、いかなる管理体制下にあっても、創造的に活動を創出し、人間の尊厳と生きる力を証明し続けます。

リカバリーとは、当事者が自分で運転席に座り、ボロボロでも自分の車を運転し続けることですが、その道のりを照らし、共に歩むのが、ピアの共有する経験と共感の光なのです。

リカバリーの概念が当事者の主体性の再獲得を目指すものである以上、その実践の場においては、ピアサポートおよびリカバリーという動きは、従来の精神保健システムに蔓延していた専門職と当事者の間のヒエラルキー(上下関係)を壊すことにつながります。

今後は、当事者中心の社会運動として展開されてきた「リカバリー全国フォーラム」の価値と、その理念を全国各地に普及させるための戦略的な提言について考察します。

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