#ピアサポート 論

ピアサポート論

序論:リカバリーの覚醒におけるピアサポートの位置づけ


筆者ら精神障害者がリカバリーの道を歩み始めるにあたり、克服すべきは病気の症状ではありません。

むしろ、自分で判断することをやめさせられ、主体性(決定と責任)を放棄してしまった状態からの脱却こそが、リカバリーの核心です。

それはもはやリカバリーなどという趣旨の不明な言葉ではなく率直に精神障害における回復とよんでも良いものです。

世界中の当事者同士で認められているリカバリーの最小限の4原則には、この主体性の回復と並んで「ピアサポート」が挙げられています。


3. ピアサポートとは人を助けることなのだろうか。

ピアサポートとは、仲間や同じような体験をした人たち同士の支え合いを指します。


このピアサポートが、リカバリーの旅において、単なる付加的な支え合いではなく、最も影響を与えるターニングポイントとなることが、筆者ら当事者自身の経験から強く示されています。


筆者が、日米精神障害者交流プログラムにおいて、リカバリーの過程にある当事者から集められた30以上のターニングポイントに関する応募資料を分析した結果、その中で最も多かったのは「人との出会い」でした。


この「人との出会い」こそが、ピアサポートの持つ力であり、当事者が自らの語りを内発的に伝えたいという欲求を呼び覚ます起点となるのです。


リカバリーを可能にするには、孤立を打破し、対等な立場で互いの経験を分かち合い、承認し合う、ピアサポートの機能と規範の確立が不可欠となります。


1. ピアの必要性:孤立からの脱却に薬は全く役に立たず、ピアサポートが決定的に必要である


リカバリーの実現を阻む最大の要因の一つは、孤立です。


筆者ら当事者の視点から見ると、この孤立の問題こそが、薬物療法では解決しえない、最も根深い困難であると認識されています。


1.1 精神障害者が直面する最大の難題としての孤立

精神的な困難を抱えてアジアで暮らすということは、家族に守られることで、欧米のようにホームレスにはならないかもしれませんが、社会から孤立する点では一緒です。


孤立こそが私たち精神障害者とその家族にとって、生きていく上で最も困難なことです。


筆者ら当事者が自らリカバリーの道を選ぶには、まずこの孤立した状態から抜け出すことが、決定的に必要です。


孤立から抜け出すことで、当事者は「同じ病気を持つ仲間たちの中で、自己決定、責任、社会的な役割、生きている楽しみを持つこと」が可能になるのです。


1.2 薬物療法が孤立に無力であるという現実

孤立の問題がリカバリーにおいて決定的に重要であるにもかかわらず、驚くべきことに、この孤立に関しては福祉制度、医療や処方薬は全く役に立ちません。


孤立は、処方薬などが効く部分ではないのです。


むしろ、精神科医療・福祉側の過剰な介入や管理が、孤立を助長する側面すらあります。


入院治療でやたらと薬を使われたりしたダメージで、退院したあと数ヶ月、長くて数年、その薬漬けからの回復に時間を取られ、孤立することになるケースもあります。


また、社会生活での失敗経験を繰り返すうちに、内にこもって孤立していく仲間もいます。


この構造をなんとかするのは、精神障害者やその家族、あとは何でもない人たち同士がネットワークのようにつながり、リカバリーの過程にある精神障害者たちが、孤立している仲間たちに、自分たちを発信していくこと以外にはないのです。


精神障害者の仲間活動は薬にとって代わるものではありませんが、一番の困難を克服する大切なことなのです。


1.3 国際的な貧困地域における切実なピアサポートの事例

ピアサポートの必要性は、日本の当事者活動だけでなく、国際的な貧困地域での切実な課題としても明らかになっています。


2011年のWFMH南アフリカ・ケープタウン大会では、南アフリカの「うつ・不安グループ」によるカウンセリングコンテナの報告がありました。


その地域は18万人から25万人が貧困に苦しみ、そのうち50%から65%が職に就いていない状況でした。


ここで最も深刻だったのは、孤立の問題です。一番近い精神病院へのタクシー代が20ランドかかり、往復の40ランドがあれば1週間家族が食べていけるため、当事者は病院に行くことができず、孤立を感じる人が多かったのです。


水道がなく、どぶ川を飲み水と下水にしているような地域です。


この状況に対し、彼らは「何かできることはないか」とブレインストーミングし、カウンセリングを始めました。


あるNGOが寄付してくれたコンテナをカウンセリングセンターとして建てたところ、それが安全と安心のランドマークになりました。


コンテナでは45分の無料カウンセリングが行われ、地域社会でレイプされた17歳の方のトラウマについての相談など、多くの相談が寄せられました。


また、国際的な動きとしては、無料カウンセリングセンターに加えてサポートグループを作り、教師の自殺が多いという地域課題に対応するための学校教育自殺予防プログラムも作成しました。


この活動は、精神科におけるクライシスをもつ状態の当事者に対して、警察や病院をコーディネートし、お金を払えない人が多いため、自分たちが間に入って分割払いの交渉をするという、極めて実践的な支援にまで及んでいます。


この事例は、ピアサポートが、医療が届かない貧困と孤立の環境下において、当事者の知恵と共感に基づき、命を守るための生活支援、権利擁護、そして地域ネットワークの構築という、複合的な機能を持つことを示しています。


2. ピアサポートの原則:ピアサポートは「シェア」であり、ギブ・アンド・テイクでは成立しない


ピアサポートがリカバリーに効果を発揮するためには、専門職と当事者間に存在するようなヒエラルキーのない、対等な関係性の確立が不可欠です。

2.1 ピアサポートは「仲間同士のシェア」

リカバリーに目覚めるために、私たち精神障害者が今すぐにできることの一つがピアサポートです。


ピアサポートとは、同じような体験をした人たち同士の支え合いですが、それは単なる助け合いではありません。


ピアサポートのグループでは、メンバーがお互いに時間を作り、自分のことをよく知ってもらうために話をするのです。互いに語り合い、聞き合うことが重要です。


筆者が立ち上げたピアサポートグループでは規約を作成し、そこに見られるように、ピアサポートの目的は、「わかちあい」「ひとりだち」「ときはなち」「なかま」の四つが挙げられています。


特に、ピアサポートの場では、生きづらさや、困りごとを真ん中に置いて、みんなで知恵を出し合うことがピアサポートの形の一つです。


仲間の輪の真ん中に置くのはあくまでもその人の困りごとであるべきで、その困った人を輪の真ん中に置いて、その人抜きで、話し合うべきではないという規範が示されています。


なぜなら、その人抜きで話し合ったりすると、その人のパターンごとにいつも決まった妙な解決策が出てきてしまうからです。


これは、ピアサポートが「ギブ・アンド・テイク」の関係ではなく、経験の「シェア」によって成立し、当事者が常に議論の主体でなければならないという原則を示しています。

2.2 セルフヘルプグループの規範:「わたしを主語に話す」ルール

ピアサポートを実践するセルフヘルプグループの運営には、当事者同士の安全な対話と成長を促すための明確な規範が必要です。


例えば、筆者が発起人になったピアサポートグループの規約には、ピアカウンセリングセッションのルールが詳細に定められています。


ピアカウンセリング・セッションのルール

1. 守秘義務: セッション中に話された事柄は全部会場に置いていく。後になって蒸し返さない、メンバー同士でもセッションが終わった後に話題にしない、外部の人に話さない。


2. 話を聞く態度: 話している人を妨げない。発言したいことがあったら、話し手が終わった後に発言する。相手の気持ちや言いたいことを理解し、共感する。


3. 話す人の態度: 個人攻撃をしない。「わたしを主語に話をする」。長すぎず、短すぎず話す。


この「わたしを主語に話をする」という規範は、当事者が自らの感情や体験を率直に表現しつつ、他者の価値観を押し付けたり、批判したりすることを防ぐために極めて重要です。


また、グループの運営(司会/ファシリテーター)も当事者が担います。


司会は、喧嘩をさせない権限を持ち、うまく全員が意見を言えるようにし、話しすぎる人に対して話を区切る権限を持ちます。


メンバーは3人から6人が最適であり、8人を超えたら2グループに分けることが推奨されています。


全てのメンバーがファシリテーターを経験することも、当事者主体の運営能力を高め、エンパワーメントのみなもと、つまりグループ全体がリカバリーの起源にいる上で重要です。


2.3 国際的なピアサポートの原則:専門職は「コーチ」程度であれ


アメリカの当事者主体のプログラム、例えばロサンゼルス精神保健協会のプロジェクトリターンの事例からは、専門職がピアサポートを尊重する上での理想的な役割が見て取れます。


ピアサポートグループの集合であるプロジェクトリターンでは専門職を雇用しています。


対等な関係性は、リカバリーにおける当事者の自己決定権を尊重する上で不可欠です。


また、ロサンゼルス精神保健協会の運営する、メンタルヘルスにおける統合型サービスエージェンシー、ビレッジISAでは、金銭管理のコーチや、ローンの支払いを助ける「ヴィレッジ銀行」の出納係もメンバーが担当しており、メンバーが責任を持って自分のお金を管理し、自分で使う分と貯金する分の決定をできるように成長を促す、むしろ成長させられることを目的としています。


さらに、就労においても、仕事上のスーパーバイザーとメンバーの関係は、精神保健のスペシャリストと障害者の関係ではないと明確に定義されています。


失敗を恐れるのではなく、支援を集中させるのは「失敗から何を学ぶのか」という点であるとされています。


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